複合危機(ポリクライシス)の世界と反資本主義左翼

1,帝国主義の世界支配の破綻とグローバルサウス

21世紀は世界のパワーシフトが進み、世界のGDP占有率は先進国のG7が1990年代初頭に70%近くであったものから約40%に低下、他方、BRICSはG7とほぼ同じ規模の経済圏となっている。20世紀初頭に確立された帝国主義の世界支配(レーニン)であったが1990年代から本格化したグローバリゼーションと新自由主義の30年を経て大きな後退をしているのである。

これは旧植民地諸国の一定部分が豊かになるという積極面を持つ一方、各国国内の貧富の格差が拡大する、米中対立が激化する、サヘル・中米・南アジア等の国家機構と経済が脆弱な国々が崩壊的状況を呈するといった不安定な状況を現出させている。

中国は1978年に改革開放政策を取って以来、驚異的な経済成長を実現してきた。中国名目GDPの推移は、1978年から50倍以上になり、21世紀の20年では約14倍となった。20世紀、左派右派問わず、経済学者で中国が世界経済の主要なプレーヤーになると予想した者はいなかった。中国がこの驚異的な経済成長を実現した背景としては、米ソ冷戦構造と中ソ対立の中での1979年米中国交正常化以来の米帝国主義との「平和的な」外交関係があった。しかし、その共存関係から今や米帝国主義としては中国の台頭を抑えなければ自らの覇権を失うという段階に至ったのである。

「グローバルサウスの台頭」と言われるものの実態は単純な様相ではない。コンゴ・スーダンなどのサヘル諸国、ハイチ等の中米諸国では脆弱な国家機構が崩壊し、帝国主義や周辺諸国が武装勢力と連携して利権に介入するという事態となっている。スリランカやバングラディシュといった南アジア諸国の経済的混乱も深い。

政治的にみても「グローバルサウスの台頭」は1966年の反帝国主義・反植民地主義を掲げたアジア・アフリカ・ラテンアメリカ人民会議結成とも違っており、むしろグローバルサウスでの新自由主義の拡大という面を持つ。先進帝国主義諸国の世界支配は破綻しているが、現段階では、それに代わる民衆の新しい秩序が構築されようとしているわけではないのである。

インドのGDPは来年には日本を抜いて世界第4位になると言われている。それは1990年からの30年で12倍と急成長を実現している。しかし、インドの若者の失業率は約45%と世界で最も高い水準と言われ、90%の労働者がインフォーマルセクターで雇用されているといい、労働力の半数近くを雇用する農業はGDPの20%弱でしかない。水道の普及率は都市部でも70%、農村部ではさらに低く16%ほどにとどまっている。政治的にはヒンドゥー至上主義を掲げるモディ政権は極右に分類される。

2,戦争が絶えることのない21世紀

21世紀は、第2次世界大戦以来最大の500万人の犠牲者を出しアフリカ大戦と称される第2次コンゴ戦争の中で幕を明け(コンゴはスマホに使用するレアアースの供給国)、2001年9・11以来の米国が主導する「テロとの戦争」では、2021年8月の米軍のアフガン撤退までに100万人以上の犠牲者を出した。

2022年2月のロシアによるウクライナ侵略に始まった戦争はウクライナ兵3万人以上の死者をもたらして終結のめどがたたず、2023年4月に始まったスーダンでの軍と武装勢力の衝突は500万人の難民を生み出し、2023年10月7日に始まったイスラエルのパレスチナガザ地区への攻撃では死者が4万人に達し、その半分以上が子供や女性である。世界で戦争・紛争が絶えることなく続き、拡大している。

核兵器使用や原発への攻撃の危険性はリアリティーを帯び、核の拡散が進み、核の終末時計は「残り30秒」とされている。

3,絡み合うポリクライシス

2023年は産業革命以来の気温上昇がパリ協定で定めた上限の1.5度を超えたと言われ(ポイントオブノーリターンは2度)、気候変動は世界各地で深刻な自然災害をもたらしている。また、Covid19に続く、人獣共通感染症によるパンデミックが発生する間隔は短くなっているとされている(マラリア・エイズ・結核の3大感染症は未解決のまま)。それに加えて、AIの登場によりICTを人類がコントロールできなくなる危険も指摘されている。

上記の危機はグローバル化と新自由主義の破綻の中で互いの影響しあっており、世界は複合的な危機(ポリクライシス)の時代に入ったと言っていい。

グローバルなパワーシフトが地政学的な危機を生んで紛争と戦争を拡大している。当然、現代の戦争は核戦争の脅威を引き寄せる。

20世紀以来の先進帝国主義国の化石燃料の大量消費と肉食文化は帝国主義の独占的世界支配の上に成立したものであり、そもそも人類全体が共有できるようなしろものではなかった。セルジュ・ラトゥーシュは「米国の生活水準を全人類に普遍化すれば地球6個、ヨーロッパの水準なら地球3個が必要」と『脱成長論』で論じていたが、グローバルサウスの経済成長はこのテーマを現実化し俎上に載せ、資本主義的成長と地球の自然的限界の矛盾を突き出したといえる。

グローバル化がインターネットやソーシャルメディアの発展を生み出し、インターネットやソーシャルメディアがグローバル化を促進したが、人類がそれを統制できなくなる危険が指摘されている。ICT兵器は、火薬と核に続く第三の兵器革命をもたらすと言われる。その特徴を一つ挙げれば、戦時と平時、軍と民間の境界線を不鮮明にすることである。平時に利用するプラットフォーム・ICT環境はそのまま有事に使用される。情報戦・サイバー攻撃に宣戦布告はない。情報化社会では、政治的経済的対立と軍事的対立の境界は容易に飛び越えられてしまうのだ。

4,極右の台頭と反資本主義左翼

米国のトランプ共和党、フランスの国民連合、イギリスのリフォームUK、イタリアの同胞、ポーランドの法と正義、ハンガリーの市民同盟など排外主義を扇動する極右が世界で台頭している。昨年来のイスラエルによるガザで続くジェノサイドは、「宗教シオニズム」や「ユダヤの力」といった内閣における極右政党の存在が大きな動力となっている。これら極右は移民や異教徒、マイノリティーを仮想敵に仕立て、ネットを使って排外主義・差別主義を暴力的に扇動し、虚構の解決策を提示している。

他方、反資本主義左翼は、現在、時に中道左派勢力や民主化勢力と連携して政治的なプレゼンスを確保することに成功しているが、総体としては、かつてのように独自の民衆の政治的選択肢として登場できていない。

しかし、世界は、資本主義の継続か、人類の存続かの二者択一的に迫られる地点に差し掛かっている。そして、反動的な戦争と独裁、排外主義・差別主義、そして環境の破壊に対して、世界中で多くの人々が合法的手段を駆使し、あるいは実力的な方法で、命がけで立ち上がっている。これを一つの力にしていこう。グローバルな民衆の連帯に基づく平和、新自由主義的な経済的膨張からの脱成長、真の公共の復活、資本主義に変わる世界の構築を実現しよう。

2024年8月