昨日、新型コロナウイルス(COVID-19)による世界での死者で中国以外が中国のそれを上回り、パンデミック(世界的大流行)の様相を確定した。同時に、ニューヨーク株式市場で、ダウ平均株価の終値は1万1973.98ドルとなり、トランプが2017年1月20日に大統領に就任した際の終値(1万9827ドル)を下回って「トランプ相場」は終わりを迎えた(1月約28000ドル)。
そして、世界中でポピュリストの権力者たち(トランプ、安倍、マクロン、ボリス・ジョンソン、コンテなど)が非常措置・ロックダウンと海外への渡航制限を乱発し、混乱を拡大している。しかし、これらの措置が持続可能なものでないことも明らかである。他方、感染終息に向かう確固たる見通しはない。私たちは民衆の側からの「出口戦略」を見出していこう。
(1)新型コロナウイルスの脅威
2020年2月29日「WHO中国に関する調査報告書」によると、COVID-19の症状としては発熱が全体の87.9%にあり、感染後平均5~6日で症状が現れ、80%は症状が比較的軽い、重症のリスクのあるのは60歳を超えた持病のある人、逆に子供の感染例は少ない。全体の致死率は3.8%、80歳を超えた感染者の致死率は21.9%。1月1日から10日までに発病した患者の致死率17.3%となっているのに対し、2月1日以降に発病した患者の致死率は0.7%と低く、感染拡大に伴って医療水準が向上した結果だとした。
最近の情報では、感染は接触感染・飛沫感染に加えエアロゾル感染があるという。医療機関での感染の他、中国では家庭が、日本では屋形船やスポーツジムやライブハウスなどの密閉された場所で起きたとされている。下気道(肺)への感染者に比較して、上気道での感染に留まった人は軽症で感染を広める要因となっているという。
呼吸器官への新たな感染症の発生は大きな脅威であることは間違いないが、これはどの程度の「脅威」なのであろうか。それは考え方によるであろうが、他の感染症と比較してみる。本年、米国では2600万人以上がインフルエンザに感染し、死者は1万4000人に昇る。日本では近年、毎年インフルエンザで3000人程度が死亡している。現時点では死者の規模では新型コロナをインフルエンザが遥かに凌駕し、致死率では0.05%のインフルエンザが新型コロナより遥かに低い。エボラ出血熱の致死率は50%を超え、2014年西アフリカの流行では、2万8512人が感染し、1万1313人が死亡したとされる(WHO)。因みに、ウイルスは致死率が高いほど宿主がなくなるので感染が拡大しにくくなる。
重症急性呼吸器症候群SARSの2002年11月から2003年7月にかけて中国南部を中心に起きたアウトブレイクでは、広東省や香港を中心に8,096人が感染し、37ヶ国で774人が死亡した(致命率9.6%)(WHO)。新型コロナより感染者数は少なく、致死率は高い。
スイスの公衆衛生学者(健康人類学者)、ジャン=ドミニック・ミシェル氏による、とても興味深い記事(3月18日)が『レイバーネット』に紹介されている。http://jdmichel.blog.tdg.ch/archive/2020/03/18/covid-19-fin-de-partie-305096.html
ミシェル氏は、系統的な検査が行われていない状況で死亡率は計算できないこと、Covid19は非常に感染しやすいが死亡率はおそらく低い(中国の最新の統計0,3%以下、インフルエンザとあまり変わらない)であろうことを指摘する。そして、感染の拡散を防ぐのに最も有効な方法は、韓国のように系統的な検査を実施し、陽性の人を隔離することだと述べる(つまり、大量検査なしに住民全部を「封じ込める」のはあまり効果がない)。問題は、コロナウイルスは重症患者を続出させることだ。既に観察されているように、他の慢性疾患(高血圧、糖尿病、心血管の病気、癌など)がある人は重症に陥りやすい。イタリア、スペイン、フランスが危機的な状況に至ったのは、初期対応が悪かったこと、PCRテストをすぐに製造せず、マスク・手袋など防護用品が欠乏していること、そして(ネオリベ)政策によって20年来、集中治療用のベッド数を減らしてきたからだという。1000人対し6ベッドを保つドイツの死亡者は少ないが、イタリア2,6、スペイン2,4より少しマシなフランスも2000年の4ベッドから3,1に減っている。ちなみに、OECDの2020年の統計でトップは日本(7,8)、次が韓国(7,1)、3番がドイツ。ベッド数が少ない国には英国(2,1)やUSA(2,4)があるが、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、オランダなど北欧諸国はフランスより少なく、ヨーロッパで福祉国家がいかに解体されたかわかる、としている。
(2)最大の脅威は「医療崩壊」
別表1を見て欲しい。国によって致死率が大きく違う。韓国では1%以下だが、イタリアでは8%を超える。イタリアの感染者の80%は北部に集中、死者の平均年齢は80歳、80歳以上の治療を放棄したとの情報も飛び交う。中国・武漢市同様、オーバーシュートで医療体制が崩壊したと思われる。イタリアでは近年、医療費削減で病院統合が進み、医者が海外に逃げ出していたという。2015年MERS(中東呼吸器症候群)の時は韓国でも医療崩壊を経験したが、SARS、新型インフル、MERSと何度も新型感染症に襲われた韓国は、今回、ドライブスルー方式のPCR検査など一定の感染症対策がなされているという。
別表2を見て欲しい。日本では自動車産業の中心地・愛知県での致死率が12%とイタリアを上回る。これはPCR検査が制限されていることによって現れた数字と思われる。「致死率1%」と仮定すると、愛知県の感染者は公表数字の10倍を超える1600人と推計される。感染者は入院することになっているが、愛知県では139人の感染者で既に「入院待ち待機」が発生している。
防疫において、新自由主義がもたらした利益至上主義の医療経営がグローバリズムによる人の移動と経済活動に全く対応できていないということが問題の核心ではないか。
(3)世界経済危機の開始
コロナショックで、株価が暴落、日経平均株価は1月20日の2万4000円から1万6000円台へ急落、世界で株式資産の3分の1が消滅した。各国の渡航制限でサプライチェーンが寸断され、外出禁止措置が加わって観光産業と外食産業が大打撃を受けている。北米で自動車ビックスリーが生産を停止、ボーイングなどの航空業界も深刻な経営危機に陥っている。
コロナショックが感染拡大の終息とともに終わるのかどうかは予断を許さないが、コロナショックがひとつの「引き金」に過ぎず、経済危機が2008年リーマンショックからの景気回復の期間の終了を告げていることは間違いない。
既に、2019年10月15日、IMFは「世界経済見通し」で、世界経済の成長率は2019年に3.0%、2020年に3.4%になると発表していた。因みに、2017年の成長率は4.8%。3.0%という数値は、リーマンショックが起きた2008年(3.0%)および翌2009年(マイナス0.1%)以来の低水準。ここ2年、主要先進国の産業分野では減速が続き、ブラジル、インド、中国などの新興国でも高成長の持続は可能ではなくなっていた。
先進国による金融緩和と新興国の急成長というリーマンショック後の世界経済の成長の構造が共に行き詰まっているのだ。
(4)エコロジカルな危機
医療の進歩で20世紀は感染症を克服したとされるは例も増えたが、21世紀は、再興感染症や新たな感染症が次々誕生している。
グローバリズムは自然を改造して温暖化と多様性の喪失をもたらしている。人の国際的移動・流動性に防疫が追いついていない。同じ中国を発祥の地としながら、2020年の新型コロナは2002年のSARSの10倍のスピードで世界に感染を拡大している。グローバリズムの下、「物の消費から体験の消費へ」と煽られる商業主義的観光の拡大は、オーバーツーリズム(観光公害)と共に感染症の危機も作り出しているとするのは言い過ぎだろうか。
「人道主義実践医師協議会」ウ・ソッキュン氏は、「環境破壊で人間が野生動物と接触する機会が多くなって、資本主義的工場式畜産業で豚や鶏などの遺伝的多様性が排除された動物でのウイルス変異が容易に起こり、急速に広がる異常な条件が揃っている。ここに移動手段の発展とでたらめな公衆防疫システムの問題が重なったことがパンデミック発生の真の原因だ」と述べている。
『Big Farms Make Big Flu(大農場が大きなインフルエンザを作り出した)』の著者Rob Wallaceは、今回の新型コロナウイルスを生み出したのは、工業的な農業そのものだ、多国籍企業による食のシステム、特にファクトリーファーミングであることを指摘する。
近年、後進国では、マラリア・エイズ・結核の3大感染症で1日7000人が死亡し、マラリアだけで年間2億人を超える人々が感染していた。私たちはそれを見過ごしてきたのだ。 異変は人間にだけに起きているのではない。2019年中国ではアフリカ豚熱(豚コレラ)で1億頭20%を超える豚が死亡している。東アフリカでサバクトビバッタの大群が発生、FAOによると被害は中東からインドへ拡大、2000万人が食料危機に直面している。
私たちは「エコロジカルな社会主義」「先進国の脱成長」「競争ではなく共存を」の理想を掲げ、労働者の解雇の禁止、100%の休業補償、高齢者と病弱者に十分な医療を求めて、闘っていかなければならない。こんな時だからこそ、労働組合は大切だ。労組への弾圧に反対しよう。
別表1
国 | 感染者 | 死亡者 | 致死率 |
世界 | 240000 | 10000 | 4% |
中国 | 80967 | 3248 | 4% |
韓国 | 8652 | 94 | 1% |
米国 | 14250 | 176 | 1% |
フランス | 10995 | 372 | 3% |
ドイツ | 10999 | 20 | 0% |
イタリア | 41035 | 3405 | 8% |
英国 | 3269 | 144 | 4% |
スペイン | 17147 | 767 | 4% |
イラン | 18407 | 1284 | 7% |
別表2
・地域 | 感染者 | 死亡者 | 致死率 |
日本 | 1727 | 43 | 2% |
愛知 | 139 | 16 | 12% |
北海道 | 158 | 6 | 4% |
東京 | 129 | 3 | 2% |
大阪 | 123 | 1 | 1% |
兵庫 | 101 | 4 | 4% |
2020年3月21日