10:2010年「アラブの春」から6年、中東の今をみる

膨大な民衆の犠牲を生みだす帝国主義の「対テロ戦争」

 

 アメリカ帝国主義と有志連合、及びロシア帝国主義による「対テロ戦争」は、中東の民衆に膨大な犠牲を日々生みだして強行されている。許せない! 日本の安保関連法は憲法を踏みにじってアメリカの軍事政策に協力していくものだが、それは東アジアにおける対中国封じ込めとともに、中東地域における「対テロ戦争」によって構成されている。「対テロ戦争」の非人道性はアメリカの戦争政策とそれに追随する日本の安保政策の不正義を端的に示すものである。

 

アメリカ帝国主義の支配政策の破綻がもたらしている現在の中東紛争

 

 中東を自らと自らの同盟国の力で単一的に支配することができなくなったアメリカは、中東の地域権力を個別に支援し、対立させ、分断して支配するという政策を現在は取っている。それが、サウジアラビアなどスン二派の勢力とイランの影響を受けたシーア派に連なる勢力の対立を泥沼化し、この地域を際限のない紛争の地域としてしまっている。紛争の根源はアメリカなど欧米帝国主義にあるといえる。欧米帝国主義が、「テロとのたたかい」などといって自らを正当化することほど恥知らずなことはない。アメリカは「人権外交」などと称しながら、一方では「絶対君主制・政教一致」のサウジアラビアを支援し、他方ではイラクのマリキ政権を支援しているのである。「テロ」を作り出した根源は地域の対立を煽ってきたアメリカの支配にあるのだ。

 

地域権力の対立

 

 現在の中東では、サウジアラビアなど湾岸諸国及びトルコが支援するスンニ派勢力と、イラン政府―イラク・マリキ政権(イスラム法治国家連合)-シリア・アサド政権(アラウィ派)-イエメンのフーシ派―レバノンのヒズボラ等のシーア派系勢力の対立が激化している。アメリカは1979年イラン革命以後、サウジなど湾岸諸国とエジプトを枢軸に中東の支配を実現していたが、2003年イラク・フセイン政権を崩壊させて以降、イラクに親米政権を築けず、自らが「テロ支援国家」に指定するイランとの繋がりの深いシーア派のジャファリーやマリキなどと同盟関係を築くという矛盾した政策をとることとなっている。

他方、同じスンニ派でも、トルコ政府はクルド人を弾圧する国内の政治体制から、シリアやイラクのクルド人勢力とは対立を深めている。

 

ISIL(「イスラム国」 ダーイシュ)台頭の背景

 

 イラク・マリキ政権のスンニ派住民弾圧が、スンニ派住民と旧フセイン政権の幹部、イラクアルカイダ機構を結びつけ、「イスラム国」を誕生させたという。「イスラム国」とアメリカ帝国主義は現在、激しく対立しているが、アメリカがイラク戦争を遂行し、その後のイラクをマリキ政権に任せたことが「イスラム国」を誕生させたといえる。

 イギリスより広大な地域を支配する「イスラム国」について、「反帝国主義的だ」という評価がある一方、アメリカがイラク戦争当時からイラクの3分割支配(北―クルド、中―スンニ、南―シーア)という絵を描いていたこと、20146月に「イスラム国」がイラク第2の都市モスールを難なく制圧したことをもって「イスラム国」建設はアメリカ謀略だとする評価もある。共に極端な見解で正しくないであろう。アメリカは地域権力を相互に支援して対立を煽り、分断支配を狙いながら、コントロールを失って地域の紛争を拡大していると見るべきと思う。

 

「アラブの春」は何だったのか

 

20101217日、チュニジア中部シディ・ブジドで、失業中だった26歳の男性モハメド・ブアジジが警察に抗議するために焼身自殺を図った。そこから民主化闘争が一気に拡大、チュニジアでベン・アリ政権、エジプトでムバラク政権を相次いで打倒し、アラブ社会全域に広がった。それはアラブ民衆の積年の怒りの発出として、アラブに新しい世界を築くための偉大な一歩であった。

 

しかし、この「アラブの春」は、リビア内戦、シリア内戦となって現在の混沌へと至っている。2011年リビア内戦でNATO軍がカダフィ政権打倒のために空爆で介入した事実などから、「アラブの春」自体を「帝国主義の謀略」だとする評価もある。しかし、真っ先に打倒されたベン・アリ政権やムバラク政権が親米政権としてアメリカの中東支配の支柱だったことを考えると、これも極端な評価に思われる。

 

シリア内戦では、アメリカは、アサド政権への空爆をひかえ、反政府派の国民戦線や自由シリア軍への対空砲火の提供を拒否するなど、反政府闘争の支援に抑制的な態度で臨んでいる。他方、アサド政権を支持するロシアは反政府派地域への空爆を強行している。アメリカのシリア政策の基本は、リビア等の無政府状態の出現の教訓から、「バシャール・アサドなき現体制の保持」であると見受けられる。その点では、アサド政権を支持するロシアの政策とバシャール・アサドの退陣を求めるアメリカの政策は似通っているともいえる。

 

偉大な「アラブの春」から6年、現在の中東は苦難の時を迎えている。平和とすべての民衆の生存権が保障されることが未来ある社会を築いていく礎だ。

資本主義自身はフランス革命から続く100年の内乱を経て歴史に誕生してきた。「資本主義に代るもうひとつの世界」は、現在の苦難を越えてその姿を現すに違いない。

 

ヨーロッパにおける「テロ」を越えて

 

中東・アラブ地域の紛争の拡大と連動して、201517日、フランス・パリにおける「シャルリー・エブド」事件、20151113日、パリ市街と郊外のサッカー競技場とコンサート会場における銃撃・爆弾事件、2016322日、ベルギーのブリュッセル空港及びマールベーク駅における連続爆破事件などが起きている。

他方、このような事件をも契機に、ヨーロッパでは移民排斥を訴える極右の排外主義暴力が多発している。

ヨーロッパにおけるイスラム系移民の問題は、失業や貧困など、アメリカにおけるアフリカ系住民(黒人)の問題に似ている。資本主義を変革する左翼運動が、移民の権益闘争と固く連帯していけるかどうかが、「テロ」を乗り越えいく試金石だと思う。

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