20.小論:エコ社会主義と労働運動

昨今、世界の左派の理論で「エコ社会主義」及び「脱成長論」が注目を集めている。

日本でも斎藤幸平氏の『人新世の「資本論」』がベストセラーと言っていい売り上げを示している。『人新世の「資本論」』はやや雑駁なところがあるものの、若い筆者が欧米の最先端の議論を簡潔にまとめ、多くが読める新書版でそれを発行したことの意義はとてつもなく大きい。是非、多くの方に読んでもらいたいと思う。

この論考では、斎藤氏の提起を前提としつつ、「エコ社会主義」「脱成長論」とわれわれの現実の労働運動の関係を考察してみたい。

1. エコ社会主義とは

例えば、ミシェル・レヴィは、以下の13点を指摘している。

1.環境的危機はすでに二一世紀の最も重大な社会的かつ政治的な問題になっている。

2.IPCCが説明するように、(2050年までに)平均気温が前産業革命期を一・五度C超えれば、不可逆的な気候変動プロセスを始動させる危険がある。

3.これらは人類史上前例のない破局の危険だ。

4.差し迫った破局における資本主義システムの責任は広く認められている。

5.資本主義政府は、資本蓄積、多国籍企業、化石燃料寡頭支配者、全般的商品化と自由貿易の役に立つように行動中だ。

6.「グリーン資本主義」「炭素市場」「相殺メカニズム」といわゆる「持続可能な市場経済」に関する他の操作はほとんど役立たずであることが明らかになった。(注 人新世の資本論P68~69にデータあり)

7.破局を避けることができる唯一の有効なオルタナティブは、急進的なオルタナティブ・反資本主義、エコロジカルな社会主義だ。

8.エコソーシャリズムは、マルクスに依拠していると主張するものの、生産力主義モデルとははっきりと決別する。集団的収用は不可欠だが、生産力それ自身もまた転換されなければならない。すなわち(a)そのエネルギー資源の変更(化石燃料に代えて再生可能なものに)によって、(b)世界のエネルギー消費の削減によって、(c)商品生産の削減(「脱成長」)によって、また無益な活動(広告)と有害な商品(殺虫剤、戦争の兵器類)の除去によって、(d)計画的な旧式化に終止符を打つことによって、だ。

9.エコソーシャリズムに向けた移行の達成は、二つの基準、つまり現実にある必要を満たすこと、および地球の環境的均衡に対する尊重、に導かれた民主的計画化を必要とする。

10.これは真の社会革命を必要とする。

11.エコソーシャリズムは未来のための構想であると同時に、今ここにある闘争に向けた一つの戦略だ。

12.この闘争の主体は誰か? 前世紀の労働者主義的/工業主義的教条はもはや通用しない。衝突の最前線に今いる勢力は、若者、女性、先住民衆、農民だ。諸労組もまたそこここで関わり始めつつある。

13.われわれは、「崩壊主義者」とは異なり、われわれは、未来は決まっていないと考える。「闘う者は負けるかもしれない。しかし闘わない者ははじめから負けている」のだ。

2. 脱成長論とは

脱成長論は、フランス等ではかなり議論の的になっている理論であるが、その主張には幅があり、ポストモダン的な近代的経済成長を全否定する主張から左派エコロジストの主張まで存在し、エコ社会主義派からは、「剰余価値から使用価値への生産成長の質の転換」が唱えられている。

ここでは入口としては、「脱成長論」を資本主義の経済成長への依存からの脱却として考えたい。

3. エコ社会主義と脱成長が注目される時代背景

ポストモダン的な響きが強かった「脱成長論」が俄然注目を浴びた根拠は、1989年以降、あるいは2008年リーマンショック以降、帝国主義の独占的世界支配が崩壊し始めたことによるのではないか、と思う。そもそも先進国(帝国主義国)の生活様式は、従属国(グローバル・サウス、新植民地)の犠牲に上に成立し、地球全体では分かち合うことが不可能な文明であった。先進国の独占支配の崩壊が、その問題を現実のテーマとして浮上させたのである。

他方、かつてエコロジーと言えば、現在は生活に困窮していない中間層が、将来の地球環境の破滅を心配しているような印象があった。ところが、実際に地球環境の破壊による影響が現実化すると、Covid-19パンデミックや異常気象による自然災害が示すように、甚大な被害を受けるのは従属国や低所得層の民衆であった。ここに現在、多数の人々が環境に対してラジカルな問題意識を共有し始めた根拠があると思われる。

4. エコ社会主義と労働運動

(1)富の再分配の問題は、エコ社会主義・脱成長の核心的なテーマのひとつだ。

20世紀後半以降、先進国・帝国主義の中産階級の拡大が地球環境に大きな負荷をかけるようになったことから、労働者の経済的地位の向上は環境に負荷をかけるというベクトルで(のみ)考えがちである。しかし、資本主義の原理からすれば、労働者階級からの収奪=剰余価値が投資に回されて資本の拡大を実現していく。したがって、本来は労働者階級全体の経済的な地位の向上は投資を抑制し、経済成長を抑止するベクトルに働くはずだ。

スイス金融大手UBSの報告によると、2020年、世界の富豪の資産は4月から7月の間で27.5%増え、10兆2000億ドル(約1081兆2300億円)に達した。新型コロナウイルスの感染が拡大する中、世界中の富豪の資産が過去最高を記録している。特にテクノロジー分野や産業界の最高幹部らが最も収入を得ている。他方、アマゾン倉庫やウーバー配達員、世界のIPhoneの部品工場やコンピュータ用のレアメタルの採掘現場では低賃金労働が強制されている。富の公正な再分配を求める労働運動の介入は、資本の無際限な拡大再生生産への重大なブレーキになり得るはずだ。

因みに、中産階級とってエコロジーは「帝国的な生活様式」への自省であるかもしれない。しかし、下層階級にとってそれは、「買い物依存症」や「債務依存症」などから脱却して生活を再建する道でもある。下層階級の生活破綻は、消費の強迫観念を作り出す資本の攻撃的な広告と、現実の惨めな収入のギャップによって生み出されてもいるのだ。

(2)労働現場と環境

環境破壊を重大要因に21世紀はパンデミックの世紀となっているが、医療・福祉の現場労働者は労働強化と低賃金の二重の攻撃にさらされている。小売業の販売員や運送業の労働者たちも危険な現場にたち続けている。そうした中で、今や、エッセンシャルワーカーからの反撃が開始されつつある。

私たちのユニオンでは、今夏、いくつかの職場で企業に「熱中症対策」を申し入れた。気温が体温を超えると屋外での仕事は生命の危険を伴う。気候変動に対する具体的なたたかいが必要だ。

(3)関西生コン弾圧を許さず、労働運動を守り、創造しよう!

関西生コン労組の産業政策運動は、労働組合が使用者たる中小企業に協同組合を作ることを促し、もって、大資本たるゼネコンによる生コンの買い叩きとセメントメーカーの「拡販政策」に対抗するものだ。 特に関西生コン労組が取り組んできた「生コンプラント新増設阻止闘争」「計画的集約化事業」は、過当競争による中小企業の経営悪化と労働者の労働条件の切り下げを起こさないため、外部からの新規参入に反対し、さらに需要総体が落ち込む中でも清算される企業の商権とそれに伴う雇用責任を協同組合が引き継ぎ、「競争から共存へ」を掲げ、「会社は潰れても労働者は残こる」「不況業種であっても安定した労働条件」を作り出してきた。企業内労組の「成果配分論」の真逆に位置する「脱成長理論」に立った労働運動と言える。

だが、今年から裁判が始まる関生弾圧京都3事件では、権力がこの取り組みを「事業活動への干渉が健全な経済活動に重大な悪影響を与えるとして」(組織犯罪対策法第1条)として、倒産解雇解決金の支払いやミキサー車の委譲を恐喝や強要として弾圧している。許すことはできない。

新しい理念を提起することは勇気が必要だが、さらに、それを実践するには既得権益を防衛しようとする権力の弾圧に打ち勝たなければならないのだ。

 

2021年1月10日